2014年4月5日土曜日

地芝居の「地」とは

 芸能研究の用語として、地芝居の「地」はどのように理解されてきたのだろうか。

①飯塚友一郎
村芝居とか田舎芝居とか一口に言つてもいろ/\な形があつた。まづ買芝居と地芝居(地狂言)とを分けてみなければならない。買芝居といふのは旅芝居もしくは他村の芝居を買つてくるのである。(中略)地芝居といふのは、その土地の芝居好きが道樂でやる素人芝居で、花と稱する祝儀を當てにして、多少は自腹を切つて催す、これも勿論村中へ只で公開する芝居である。(飯塚友一郎、1943、『藝能文化論』、鶴書房)

②池田弥三郎
地芝居とは村芝居のことだが、その「地」は地狂言・地歌舞伎などの「地」で、素人のことである。そして、地方廻りの劇団をやとって来て上演するものまで含めてそういう場合には、「地」の意味がまじって来て、中央に対するローカルということになる。一般に、右の両義をあわせもって使われているようだ。(富安風生編、1959、『俳句歳時記(全五巻)秋の部』、平凡社)

③郡司正勝
この「地」は、土地の芝居の意味で、「地唄」とおなじ原意である。いつ頃から使いはじめたのか不明であるが、元禄初年には、すでに「地しばゐ」の名称があり、土着の役者のことを「地役者」ということばもある。「田舎芝居」という場合もあるが、これは、都市から云った立場の言葉であり、「地芝居」の場合は、土地から、都市を意識して、対立させた言葉である。(郡司正勝、1971、『地芝居と民俗』、岩崎美術社)

④服部幸雄
村芝居にも、前述した「旅芝居」の一座を雇い入れて芝居を上演してもらう「買芝居」「請芝居」と、農民(山村や漁撈の民もある)自身が演ずる「地芝居」の別がある。「地」は地酒、地ビールなどの「地」で、「田舎」または「地方のひなびた土地に独特のもの」の意味で冠せたことばである。(服部幸雄、1999、『歌舞伎ことば帖』、岩波書店)

 ①の飯塚と②の池田は「地」を「素人」の意であるとしている。遊女に対する地女(じおんな)の「地」に相当し、「(その道の商売人に対して)素人(しろうと)」の意である。対して、③の郡司と④の服部は「地」を「土地」の意であるとしている。現在ではこちらの解釈のほうが一般的になっている印象であろう。旅回りのかぶき劇団が姿を消し、買芝居と地芝居を取り立てて区別する必要も無くなっている。
 池田弥三郎が「『地』の意味がまじって来て」いると指摘しているところが興味深い。一方で、服部幸雄は買芝居と地芝居の峻別をしているのにもかかわらず、「地」を土地の意味のみで解釈している。

 ちなみに、岐阜県を中心によく使われている「地歌舞伎」ということば。これまでに僕がみつけたなかでは、この池田弥三郎がいちばん古い用例である。

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